高松高等裁判所 昭和26年(う)177号 判決
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物を領置することができることは刑事訴訟法第二百二十一条の規定するところである。
而してこの規定によつて物を領置した場合には、同法第二百二十二条、第百二十条によりその目録を作り所有者、所持者、若くは保管者又はこれらの者に代るべき者に交付しなければならないことは寔に所論のとおりである。しかし目録を作り交付することは領置の要件でなく、領置後の処置であつてこの処置をしなかつたからとて領置そのものが無効となる筋合でないと解する。
原判決の引用した証拠を綜合すると、司法警察職員の職務を行う鉄道公安職員が、列車内において乗客の腰掛の下に密造の焼酎合計一斗二升位いを六個の水枕に入れた風呂敷包あるのを発見し、その持主を尋ねたが持主と名乗る者がなかつたので、鉄道公安職員は酒税法違反の犯人が遺留したものと認め且つ酒税法違反被疑事件の証拠品として一応領置することとし、これを徳島鉄道公安室阿波池田派出所に送付し、同所の鉄道公安職員齋藤貞一がこれを同所の戸棚内に施錠の上保管した事実を認めることができる。然らばたとえ領置物件の目録を作りこれを所有者又はその他の者に交付しなかつたとしても(本件の場合は持主が名乗り出ないのであるから目録交付することができない)右領置は適法と謂うべく、従つてその領置物については鉄道公安職員が占有権を取得し所有者に対し占有を対抗し得るのである。被告人は鉄道公安職員が適法に占有権を取得した領置物を竊み取つたのであるから(被告人が竊み取つたことは原判決引用の証拠によつて明らかである。)たとえ被告人が領置物件の所有者であつたとしても刑法第二百四十二条、第二百三十五条の罪を構成することは当然である。仮りに弁護人所論の如く法律上適法に領置されたものでないとしても、苟くも司法警察職員の職務を行う鉄道公安職員が犯罪の証拠物件として列車内において一応領置し、これを鉄道公安室内の領置物保管箇所に施錠の上保管した如き場合、たとえその領置が扱者の事実の誤認又は手続の瑕瑾に基いたとしても、特に悪意なくてした行為で一般の見解上鉄道公安職員が鉄道公安職員としてなす行為であると認められる場合には領置物の占有は鉄道公安職員に属するものと解するのが相当である。若しかかる場合に所有者が勝手に持ち去るも処罰し得ないとすれば検察裁判に従事する職員の事実の誤認、手続に瑕瑾ある場合は常に自力救済を許すこととなり国家の秩序は保ち得ない。公務員の不当処分に対しては別に救済の道があり猥りに自力救済を認むるが如きは法律の認容するところではないのである。然らば被告人の竊取行為を刑法第二百四十二条、第二百三十五条に該当するものと認定した原判決は相当である。